ビタミンB群には、代謝を支える補酵素として働くビタミンが数多く含まれています。代謝は複雑なネットワークから成り立っており、それぞれのビタミンBは異なる役割を担いながら連携しています。ビタミンB6はアミノ酸代謝を担う建築資材工場であり、葉酸は 1 炭素単位をリサイクルするリサイクル工場のような機能を果たします。ビオチンはカルボキシル化反応によるエネルギー代謝の調節、コバラミンはコバルトを利用した特殊な転移反応やラジカル反応を担います。このように、それぞれの補酵素は異なる化学反応を支えながら代謝全体を協調的に維持しています。本記事では、ビタミンB群の構造、機能、代謝を図解を交えながら生化学的に詳しく解説します。

ビタミンB6

 ビタミンB6の作用を持つ化合物にはピリドキシン(PN)、ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)の3種類の化合物があります。これらの化合物の補酵素型はピリドキサール-5-リン酸で、アミノ基転移反応などに関与しています。

図 1.ビタミンB6 の種類と構造

ピリドキサールによるアミノ基転移反応

 ピリドキサールが関与する反応で代表的なものはアミノ基転移反応です。アミノトランスフェラーゼの中ではピリドキサールリン酸がリシンの ε アミノ基を介して結合し、シッフ塩基を作っています。基質アミノ酸(図 16 の場合はグルタミン酸)が供給されると基質アミノ酸の α アミノ基がリシンの ε アミノ基と入れ替わって新しいシッフ塩基を形成し、基質アミノ酸は 2-オキソ酸として放出されます。基質となる 2-オキソ酸がアミノ基に付加して生成されたケチミンからプロトンが放出されて、電子の再配置が起こることでキノノイド中間体が生成され、イミノ基にプロトンが付加されて外部のアルジミンとなり、開裂すると新たなアミノ酸が遊離します。再びリシンの ε アミノ基とシッフ塩基を生成して最初の状態に戻ります。このようにピリドキサールリン酸はアミノ基転移反応において補酵素として機能し、アミノ基をアミノ酸から 2-オキソ酸へ引き渡す役割を担っています。


※ シッフ塩基:アルデヒドやケトンと第一級アミンから生成されるイミン
 アルジミン:アルデヒドと第一級アミンから生成したイミン
 ケチミン:ケトンと第一級アミンから生成したイミン

図 2.ピリドキサールが関与するアミノ基転移反応のメカニズム

ピリドキシンの誘導体の種類と構造

 図 3 に体内にみられるピリドキシンの誘導体を示します。ピリドキシンの誘導体はピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)の三つの系統を基本としてみるとわかりやすいと思います。これらの分子はそれぞれ、アルデヒド、アミン、アルコールである点で異なります。これらの分子がリン酸化を受けるとそれぞれ5’-ピリドキサールリン酸(PLP)、5’-ピリドキサミンリン酸(PMP)、5’-ピリドキシンリン酸(PNP)となります。5’-ピリドキサールリン酸はアルデヒド基を利用してリシンのようなアミンとシッフ塩基を形成することができます。このシッフ塩基は(リシンとシッフ塩基を形成した場合は)ε-N-(5’-ホスホ-4’-ピリドキサール)-L-リジン(NPPL)を生成します。NPPLからリン酸基が外れるとε-N-(4’-ピリドキサール)-L-リジン(NPL)となります。一方で、ピリドキシンはグルコースと結合した(植物に多く含まれているビタミンB6である)ピリドキシン-β-D-グルコシドやカルボキシル基に置換された4-ピリドキシン酸(4-PA)、5-ピリドキシン酸(5-PA)などが存在します。

図 3.体内にみられるピリドキシンとその誘導体

ピリドキシンの体内動態

ピリドキサールリン酸(PLP)や5’-ピリドキサミンリン酸(PMP)などのリン酸化型ビタミンB6は脱リン酸化され、ピリドキサール(PL)やピリドキサミン(PM)として吸収されます。また、植物に多く含まれるピリドキシン-β-D-グルコシド(PNG)は加水分解を受け、ピリドキシン(PN)として吸収されます。吸収されたビタミン B6 は血中では主としてピリドキサールリン酸(PLP)やピリドキサール(PL)として各組織へ輸送されます。一方でピリドキサール(PL)の酸化で生じる 4-ピリドキシン酸(4-PA)やビタミン B6 の代謝産物として生成される 5-ピリドキシン酸(5-PA)、ピリドキシン(PN)はビタミン B6 の主な排泄形態であり、これらの物質は尿中へ排泄されます。

図 4.ビタミンB6 の代謝

ビオチン(ビタミンB7

 ビオチンは様々な物質にCO2を導入する反応に補因子として関与するビタミンです。

ビオチンの構造

 ビオチンはウレイド環(尿素様構造(-NH-CO-NH-)を含む環状構造)とチオフェン環(フラン環の酸素が硫黄に置換された構造)が結合し、側鎖に吉草酸(CH3(CH2)3COOH; バレリアン酸ともいう)を持った構造をしています。生体内では、ビオチンはよく酵素と共有結合した補欠分子族として存在しています。ビオチンは吉草酸のカルボキシル基とリシン残基のεアミノ基間でアミド結合を形成することで酵素と結合します(図 5)。

図 5.ビオチンの構造とビオチン化酵素

ビオチンによるCO2転移反応

 ビオチンはいくつかのカルボキシラーゼの補欠分子族として反応に関与します。代表的な例を見ていきましょう。

プロピオニルCoA のカルボキシル化

 一つ目の例はプロピオニルCoAカルボキシラーゼによって触媒されるプロピオニルCoA のカルボキシル化です。この反応は炭素数が奇数の脂肪酸のβ酸化の結果生じるプロピオニルCoA の代謝過程で、脂肪酸を分解してエネルギーを得るうえで重要なステップの一つです。
 この反応では ATPを消費して炭酸水素イオンがリン酸化されてカルボキシリン酸が形成されることで始まります。カルボキシリン酸となることで炭酸水素イオンは活性化されて反応性の高い CO2 を供給します。ビオチンのウレイド環の窒素原子が CO2 を求核的に攻撃して結合し、カルボキシビオチニル酵素が生成されます。プロピオニル CoA のαプロトンが脱離するとエノラート中間体が生成され、CO2 が付加することで D-メチルマロニル CoA が生成されます。この過程で、カルボキシビオチニル酵素 は脱カルボキシル化されて元の状態へ戻ります(図 6)。

図 6.プロピオニルCoAカルボキシラーゼによるプロピオニルCoA のカルボキシル化

ピルビン酸のカルボキシル化

 次の例はピルビン酸のカルボキシル化です。この反応は糖新生においてピルビン酸をオキサロ酢酸を経由してホスホエノールピルビン酸へ変換する経路においてピルビン酸からオキサロ酢酸を合成をする反応です。この反応はピルビン酸カルボキシラーゼにより触媒される反応で、反応機序は先ほどのプロピオニル CoA のカルボキシル化とほぼ同じです。すなわち、ATP を消費してカルボキシリン酸が形成された後、ビオチンがカルボキシル化されます。ピルビン酸の α-プロトンが脱離してエノラート中間体が生成された後、CO2 が付加することでピルビン酸はオキサロ酢酸に変換されます(図 7)。

図 7.ピルビン酸カルボキシラーゼによるピルビン酸のカルボキシル化

アセチルCoA カルボキシラーゼによるアセチル CoA のカルボキシル化

最後の例はアセチルCoA のカルボキシル化です。この反応は脂肪酸合成において炭素供給単位となるマロニル CoA を生成するステップです。
 この反応も上記二つの反応と類似した反応機序によって反応します。ATP を消費してカルボキシリン酸が形成された後、ビオチンがカルボキシル化されます(図 8では省略しています)。アセチルCoA の α-プロトンが脱離してエノラート中間体が生成された後、CO2 が付加することでアセチル CoA はマロニル CoA に変換されます(図 8)。

図 8.アセチルCoA のカルボキシル化

ビオチンの異化と排泄

 ビオチンの異化経路には以下の二種類が存在しています(図 9)。

  1. 吉草酸側鎖のβ酸化による短縮
  2. 複素環の硫黄の酸化

 吉草酸側鎖のβ酸化ではまずATPを消費して補酵素A(CoA)と結合し、ビオチニルCoA となります(図 9)。この後、吉草酸側鎖の酸化によるα,β不飽和化、H2Oの付加と酸化によってβケト中間体を生成します。βケト中間体はアセチルCoAが脱離することで2炭素単位分短くなったビスノルビオチンが生成されます。さらに、ビスノルビオチンは同様の反応でテトラノルビオチンへ分解されます。これら異化産物であるビスノルビオチンやテトラノルビオチンは尿中へ排泄されます。一方で、各β酸化において生成されるβ-ケトビオチンおよび β-ケトビスノルビオチンはカルボキシル基を CO2 として放出して分解されます。その結果β-ケトビオチンはビスノルビオチンメチルケトンへ、β-ケトビスノルビオチンはテトラノルビオチンメチルケトンへ変換され、尿中へ排泄されます(図 10)。
 一方で、ビオチンは硫黄原子が酸化を受けてビオチンスルホキシドへ、さらに酸化されるとビオチンスルホンへ変換されて尿中へ排泄されます(図 9)。また、この経路においてもβ酸化を受けることがあり、ビスノルビオチンスルホンのような分子が尿中で検出されることもあります。

図 9.ビオチンの異化経路
図 10.ビオチン分解中間体のβ酸化

葉酸(ビタミンB9

 葉酸は 1 炭素単位の転移反応を媒介する補酵素であり、メチル基、ホルミル基、ホルムイミノ基などの置換基の転移反応に寄与します。

葉酸の構造

 葉酸はプテリジン環とp-アミノ安息香酸にポリグルタミン酸残基が結合した構造を持っています。プテリジン~p-アミノ安息香酸部分はプテロイルと呼ばれ、この部分が 1 炭素単位を受け取ったり、供給する反応に寄与します。

図 11.葉酸の構造
図 12.葉酸からTHF への二段階還元

 葉酸は後述するように代謝経路の様々な場面において 1 炭素単位を転移する役割を担っています。葉酸は吸収されたのち肝臓で二段階の還元反応を経てテトラヒドロ葉酸(tetrahydrofolate; THF)に変換されて活性化型となりますが(図 12)、THFが媒介する 1 炭素単位は、5位または10位の窒素原子、あるいは5位と10位の窒素原子の間に保持されて、テトラヒドロ葉酸の様々な形態を与えます。様々な供与体から 1 炭素単位を受け取ると以下のような形態となります(図 13)。

  • メチル基(-CH3):5-メチルTHF
  • メチレン基(-CH2-):5,10-メチレンTHF
  • メテニル基(=CH-):5,10-メテニルTHF
  • ホルミル基(-CHO):5-ホルミルTHF、10-ホルミルTHF
  • ホルムイミノ基(-CH=NH):5-ホルムイミノTHF
図 13.テトラヒドロ葉酸の様々な形態

テトラヒドロ葉酸(THF)による 1 炭素単位の変換

 テトラヒドロ葉酸(THF)による 1 炭素単位の変換の概要を図 14に示します。THFはセリン、グリシン、コリンなどからメチレン基を受け取って 5,10-メチレンTHFへ変換されますが、5,10-メチレンTHFのメチレン基はセリンの生成に利用されて5,10-メチレンTHFはTHFへ戻ります。一方、5,10-メチレンTHF が還元されると5-メチルTHFに変換されますが、5-メチルTHF のメチル基はメチオニン合成に利用され、5-メチルTHF はTHFに戻ります。一方で5,10-メチレンTHF が酸化されると二重結合が形成されて5,10-メテニルTHFとなります。THFがヒスチジン由来のホルムイミノ基を受け取ると5-ホルムイミノTHFに変換されます。5-ホルムイミノTHF はアミノ基を失うと5,10-メテニルTHFに変換されます。5,10-メテニルTHFは水を受け取って10-ホルミルTHFへ変換され、10-ホルミルTHFは異性化によって5-ホルミルTHFへ変換されます。一方、10-ホルミルTHFのホルミル基はホルミルメチオニンやプリン塩基の合成に利用されます。このようにTHFは 1 炭素単位を受け取る受容体として機能するとともに様々な分子の生合成において 1 炭素単位を供給する役割を担っています。

図 14.テトラヒドロ葉酸(THF)による 1 炭素単位の変換

5,10-メチレンTHF が生成される反応

 セリンの異化ではセリンのβメチレン基をTHFに渡して水とグリシンを生成します。この反応はセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼによって触媒されます(図 15)。

図 15.セリンの異化におけるTHFの役割

 一方でグリシンはグリシン開裂を経てメチレン基をTHFに渡すとともにCO2とNH3 へ分解されます(図 16)。

図 16.グリシン開裂とTHF

 コリンの異化経路では酸化を受けてベタインへ変換されたのちホモシステインにメチル基を渡してジメチルグリシンとなります。窒素原子に結合した二つのメチル基はTHFに転移されて 5,10-メチレンTHFを生成します。この反応ではFADの還元が共役しており、FADH2 が同時に生成されます。

図 17.コリンの異化経路とTHF の役割

5-ホルムイミノTHFが生成する反応

 ヒスチジンの異化経路では脱アミノ反応によってαアミノ基を脱離させたのち、イミダゾール環の酸化と開環が起こります。この過程で生成されたホルムイミノ基がTHFに転移されるとヒスチジンはグルタミン酸となり、5-ホルムイミノTHFが生成されます。

図 18.ヒスチジンの異化経路におけるTHFの役割

THFによる 1 炭素単位の供給

 多くの遺伝子配列において翻訳の開始点はメチオニンと決まっています。このメチオニンをコードするコドンは開始コドンと呼ばれています。一方でメチオニンは当然ながら開始コドン以外にも利用されています。そのため、開始コドンに対応するメチオニンは特別な修飾を受けています。微生物ではメチオニンがホルミル化されることによりホルミルメチオニンとなって、開始コドンとして利用されています。このホルミル化は10-ホルミルTHFが関与しており、ホルミル基をメチオニンのαアミノ基に転移して行われます(図 19)。

図 19.ホルミルメチオニンの合成とTHF

 ピリミジンヌクレオチドであるチミジル酸(dTMP)はデオキシウリジン一リン酸(dUMP)が5,10-メチレンTHFからメチレン基を受け取って生成されます。生成されたチミジル酸はさらにリン酸化を受けてチミジン三リン酸(dTTP)となり、DNA 合成などに利用されます。

図 20.チミジル酸合成とTHFの機能

 イノシン酸はアデニル酸やグアニル酸合成の中間体として重要で、de novo 経路におけるプリンヌクレオチドの合成に利用されます。イノシン酸の生合成では5-ホスホリボシル-1-二リン酸(PRPP)からリボースとリン酸基が供給されます。続いてプリン環を形成する炭素や窒素がアンモニア、グリシン、グルタミン、HCO3、アスパラギン酸、10-ホルミルTHFから供給されます。10-ホルミルTHFからホルミル基が転移されるとアミノ基とホルミル基が結合して閉環し、イノシン酸となります(図 21)。

図 21.イノシン酸の生合成とTHFの役割

活性型メチル基回路

 5-メチルTHFのメチル基はホモシステインに渡されることでメチオニンが生成されます。メチオニンにATP からアデノシンが付加されることでS-アデノシルメチオニン(S-Adenosylmethionine;SAM)を生成します。SAMは硫黄原子が正電荷を持つスルホニウムイオンとなってS-C間の電荷の偏りが大きくなるため、メチル基転移反応が起こりやすくなっています。このためSAMは様々な受容体へメチル基を転移することができます。生成された SAM はDNAのメチル化やヒストンのようなタンパク質の修飾、ホスファチジルコリンなどの脂質のメチル化に関与します。なお、メチル基を転移したのちSAMはS-アデノシルホモシステイン(S-Adenosylhomocysteine;SAH)となります。SAHはアデノシンが脱離するとホモシステインとなり、5-メチルTHFによるメチル基の転移とATPによるアデノシン転移を経てSAMが再生されます。

図 22.活性型メチル基回路

葉酸の吸収と体内動態および排泄

 食品中では葉酸はポリグルタミン酸と結合した形態をとっています。小腸の内腔にあるγ-グルタミルカルボキシペプチダーゼの作用によりポリグルタミン酸が分解されて葉酸(プテロイルモノグルタミン酸)に変換され、吸収されます。血中にみられる葉酸の内 80% 以上はメチル化された 5-メチルテトラヒドロ葉酸です。血中では血漿タンパク質であるアルブミンなど葉酸結合タンパク質(Folate Binding Protein;FBP)と結合した状態で輸送されます。酸化された葉酸は肝臓で前述の通り二段階の還元反応を経てテトラヒドロ葉酸に変換されます(図 23)。
 葉酸の恒常性の維持には腸肝循環と肝臓や末梢細胞での貯蔵の二つの作用機序が関与しています。葉酸は肝臓から胆汁として腸管に分泌されて食事中の葉酸とともに再吸収される腸肝循環をしています。胆汁中の葉酸レベルは血清の10倍程度と大きな差があるために、食事ごとに葉酸量が多少変動しても腸管での利用可能な葉酸量に大きな変動が起こりにくくなります。この作用機序は短期的な葉酸の変動の調節に寄与します。一方で、長期的には肝臓や末梢細胞に貯蔵された葉酸が機能します。肝臓や末梢細胞では葉酸は主としてメチル化されていないポリグルタミン酸形態で貯蔵されています。この貯蔵形態の葉酸は必要に応じて分解・合成されることで血中に放出されることで血中濃度が一定に保たれます(図 23)。
 葉酸は腎臓から尿中に排泄されます。ただし、腎臓では葉酸の再吸収も行われており、葉酸不足時にはこの再吸収機構が葉酸保持に重要な役割を果たします(図 23)。

図 23.葉酸の吸収と輸送、排泄

コバラミン(ビタミンB12

 コバラミンはラジカル反応やメチル基転移を担う特殊な補酵素です。

コバラミン(ビタミンB12)の構造

 コバラミンはコリン環(corrin ring:コリンとは全く異なるので注意)とアミノイソプロパノール、リボース-3-リン酸、ベンゾイミダゾールが結合した構造をしています。コリン環には中心にコバルト原子があり、様々な分子がこのコバルトに結合します。この原子団をXとしたとき、分子の名称とXの関係は以下の通りです(図 24)。

  • X:メチル基(-CH3)    メチルコバラミン
  • X:シアノ基(-CN)    シアノコバラミン
  • X:5’-デオキシアデノシン  5’-デオキシアデノシルコバラミン(ビタミンB12
図 24.コバラミンの構造と種類

コバラミンが関与する反応

メチルマロニルCoA ムターゼによるスクシニルCoA への異性化

 脂肪酸のβ酸化では炭素鎖が2炭素単位ずつ短縮され、このたびにアセチル CoA が生成されます。生成されたアセチルCoA はTCA回路においてNADHやFADH2 の産生に利用され、エネルギー産生に寄与します。多くの場合は脂肪酸の炭素鎖は偶数ですが、中には炭素数が奇数の脂肪酸も存在します。この場合は最後に炭素数が3のプロピオニルCoA が生成されます。プロピオニルCoA は3段階の反応を経てスクシニルCoA に変換され、TCA 回路に利用されます(図 25)。

図 25.プロピオニルCoA のスクシニルCoAへの変換

 プロピオニルCoA のスクシニルCoAへの経路では L-メチルマロニルCoA からスクシニルCoA への異性化がメチルマロニルCoA ムターゼによって触媒されます。メチルマロニルCoA ムターゼは補因子としてアデノシルコバラミンを持っています。この異性化反応ではコバラミン中のコバルトが重要な役割を担います。アデノシルコバラミンの 5’-デオキシアデノシンとコバルトの結合が切断することで始まりますが、この開裂は等方性開裂(ホモ開裂)であり、ラジカル中間体(Ado-CH2・)を生成します。生成されたラジカル中間体は L-メチルマロニル CoA のメチル基から水素原子を抜き取ります。水素原子を抜き取られたメチル基は不対電子を持ち、炭素骨格の再配置に寄与します。一方で、5’-デオキシアデノシンは Co と再結合して酵素は元に戻ります(図 26)。
 この反応ではラジカル中間体の生成がカギとなります。コバラミン中のコバルトはもともと Co(Ⅲ) ですが、(等方性開裂では Co–C 結合の電子対が一つずつ分配されるため)還元されて Co(Ⅱ) となります。ラジカル転位反応後、5’-デオキシアデノシンラジカルは再び Co(Ⅱ) と結合して Co(Ⅲ) 状態へ戻ります。このようにCo原子はCo(Ⅲ) と Co(Ⅱ) の酸化状態をとりラジカルを生成する機能を果たします。C-Co(Ⅲ) 結合はもともと弱いですが、メチルマロニルCoA ムターゼ中では立体構造によってさらに弱くされています(結合エネルギー 109 kJ/mol)。このことはラジカル生成に寄与しています。


等方性開裂(ホモ開裂、homolysis):共有結合電子対が1個ずつ各原子に分配され、それぞれラジカル種を生じる結合開裂様式

図 26.メチルマロニルCoA ムターゼによるメチル基転移反応

メチオニン生成とコバラミン

 メチオニン合成はコバラミンと葉酸が連携して進行します。メチオニンはその前駆体であるホモシステインにメチル基が転移されることで生成されます。転移されるメチル基は 5-メチルTHF から供給されます。この反応はメチオニンシンターゼ(Methionine synthase)によって触媒されます。メチオニンシンターゼはコバラミン(Co(I) あるいは Co(III) を保有)を補因子として結合しています。5-メチルTHF から転移されたメチル基はCo原子に配位しコバラミンはメチルコバラミンに変換されます。この反応のポイントは Co(I) です。Co(I) は極めて高い求核性と強い還元性を持っています。高い求核性を利用することにより、比較的安定な 5-メチル THF からメチル基を転移させることができます。メチルコバラミンはホモシステインのチオール基にメチル基を転移し、自身は cob(I)alamin に戻ります。
 メチオニンシンターゼは理論上、何度でも利用できますが、実際には 2000回の反応に1度の割合でコバラミンが酸化されて cob(II)alamin に変換されて不活性化されてしまいます。この反応は cob(I)alamin の高い還元性に起因しています。Co(I) のもつ高い求核性と還元性はコバラミンの反応性の高さの要因です。通常、コバラミン中のコバルトはコリン環などによる周囲環境によって比較的安定に Co(I) を維持できますが、高い還元性のために一定の確率で電子を失って Co(II) へ変換されてしまうリスクも背負っています。このために、正常なメチオニン合成効率を実現するためにはcob(II)alamin の再生機構が必要となります。cob(II)alamin は電子を受け取って cob(I)alamin が再生されます。この供給される電子は大腸菌ではフラボドキシン(flavodoxin)、NADPHとferredoxin (flavodoxin)-NADP oxidoreductase(FNR)が関与して Co 原子に渡されます。哺乳類ではフラボドキシンやFNRは存在しないため異なるメカニズムが機能しており、メチオニンシンターゼレダクターゼがFAD および FMN を補因子として含み、電子を供給します。いずれにしても電子供給を受けて再生された cob(I)alamin がS-アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine;SAM)からメチル基を受け取ってメチルコバラミンが再生されます。メチル基を渡したSAMは S-アデノシルホモシステイン(S-adenosylhomocysteine;SAH)となります(図 27)。


  • コバラミンの記載方法について
     この記事ではコバラミン中のコバルトの酸化数に従って cob([酸化数])alamin と表記します。たとえば cob(I)alamin と記載する場合、コバラミン中のコバルト原子は Co(I) となります。
  • 還元性と求核性について
     還元性は電子を放出して自身が酸化される能力を言います。求核性はほかの原子種に電子を供給して結合を形成する能力をいいます。
図 27.メチオニン生成におけるメチル基転移反応とメチオニンシンターゼの再生

練習問題

問.この図はパルミチン酸にセリンを導入して 3-デヒドロスフィンガニンを生成する反応の反応機序を表している。[1]~[8] に当てはまる分子を選べ。

問題図

正解図

正解図

※この問題はビタミンB6解説の応用問題です。詳細はこちらの記事「セラミドの生合成」を参照してください。

問.ピリドキシンおよびその誘導体に関する記述で正しいものを選べ。

問.ビオチンが関与する反応として正しいものを選べ。

問.ビオチンの異化経路について正しい記述を選べ。

問.葉酸が転移を媒介する1炭素単位として正しいものを選べ。

問.活性型メチル基回路に関する記述として正しいものを選べ。

問.葉酸の体内動態に関する記述として正しいものを選べ。

問.この図はメチルマロニルCoAムターゼの作用機序を表している。[1]~[3] に当てはまる分子を選べ。

問題図

参考文献

共通

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