ビタミンには様々な物質が含まれ、実に多様な機能を果たしています。例えばビタミンAはレーダーやセンサーに相当する視覚にかかわるビタミンです。ビタミンB群には様々な補酵素が含まれます。例えば、ビタミン B1 やフラビン、ナイアシン、パントテン酸などは発電所のようにエネルギーを生み出すTCA回路や酸化的リン酸化に関与する補酵素であり、ビタミンB6、パントテン酸、ビオチン、葉酸、コバラミンなどは脂質合成やメチル基転移反応など細胞を構成する物質の生合成にかかわる工事作業員のような補酵素です。血清 Ca2+は神経のシグナル伝達などに深く関与する重要な因子です。 血清Ca2+濃度を適正に保つ役割はビタミンDが担っており、これは情報伝達を適正に制御するサーバー管理者のような役割にあたります。体内では活性酸素や脂質ラジカルのように生体を傷つけてしまう分子が生成されることがあります。ビタミンCやビタミンEは警察官や消防士のように、これらの物質が引き起こす危険な反応を止める役割を担っています。血管は体内の物流を担う道路のような役割を担っています。これらの血管が破れたような創傷部位では血小板や血液中のフィブリンなどの作用により傷口をふさぎます。この作用は道路の破損個所を修繕するような役割に相当し、この作用に関与するビタミンがビタミンKです。
ここで紹介した機能はビタミンの機能の一部です。この他にもシグナル伝達を媒介したり、ビタミン同士の関連もあったりとビタミンの作用は実に様々です。今回の記事ではビタミンについて概要を解説し、全体像をつかんでもらうことを目的に解説しています。

Contents
ビタミンの定義
栄養素には糖質、タンパク質、脂質、無機質およびビタミンがあります。これらの栄養素の中には生命の維持に必須でありながら、体内で生合成ができないものあるいは合成できたとしても量が不十分なものがあります。これらの栄養素は食物から摂取することが必要となりますが、このようなものの内、微量な有機化合物のことをビタミンと呼んでいます。つまり、ビタミンとは以下の条件を満たす栄養素のことを言います。
- 正常な生理機能を営む上で必須である
- 必要量を体内で賄うことができない
- 有機化合物である
- 必要量が微量である
この定義のため、ビタミンとは栄養学的な立ち位置から命名されたものであり、糖質や脂質のような特定の構造を持ったものに対して命名されたものではありません。必然的にビタミンには実に多様な物質が含まれることになります。
ビタミンの機能と特徴
このような栄養素には現在13種類が知られています。ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、 ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKが知られており、ビタミンB群には8種類が存在しています。表1に13種類のビタミンと物質名、生体内での機能と欠乏症をまとめています。ビタミンは多種多様な物質を含みます。そのため機能についても実に多様です。
補酵素として機能するビタミン
ビタミンB群とKは補酵素として機能し、生体内の反応を進行させる機能を担います。特にビタミンB群は様々な物質を含み関与する反応もカルボキシル基の付加反応や酸化還元反応、アミノ基の転移反応などエネルギー代謝やタンパク質、脂質、糖質などの代謝に重要な反応などさまざまです。一方で、ビタミンKはグルタミン酸のカルボキシル化に関与し、γ-カルボキシグルタミン酸をプロトロンビンやオステオカルシンなどに導入します。このため、ビタミンKは血液凝固作用や骨のカルシウム沈着に重要です。
抗酸化作用を発揮するビタミン
ビタミンCとEは抗酸化作用を持っており、体内で還元剤として機能します。ビタミンEは脂溶性の分子であり、細胞膜上で脂質酸化を抑制する機能を果たしています。脂質酸化は脂質ラジカルが発生することで始まりますが、反応が進む過程でさらに脂質ラジカルを生成するため、反応が連鎖的に進み増幅していくことになります。ビタミンEは脂質ラジカルの発生を阻害して脂質の酸化が起こらないようにする機能を担っています。ビタミンCは水溶性のビタミンで液相において活性酸素などの分子による酸化作用から自身を保護する役割のほか、酸化したビタミンEを還元して再生する役割を担っています。
ビタミンCは還元力を利用してコラーゲンの生合成にも寄与します。コラーゲンはプロリン残基やリシン残基を水酸化することで成熟します。この水酸化に関与する酵素は活性中心にFe(Ⅱ)を持っていますが、反応の過程で鉄原子は酸化され、Fe(Ⅳ)となります。次の反応に備えるためにはこの鉄原子を Fe(Ⅱ) に還元する必要がありますが、この還元をビタミンCが担っています。
光受容体として機能するビタミン
ビタミンAは様々な機能を有していますが、重要な機能の一つが、視覚における光受容体としての機能です。光センサーとしての機能を担うタンパク質はロドプシンですが、このタンパク質はレチナールを内包しています。光を受容するとレチナールの構造変化が誘導され、シグナルカスケードが開始されてシグナルが増幅されるとともに細胞膜電位の変化を生み出し、シグナルが伝達されていきます。
ホルモンのように情報伝達に寄与するビタミン
ビタミンAとDはホルモン様の機能を発揮して、遺伝子の転写制御を行う物質としても機能します。これらのビタミンは核内受容体と結合したのち、DNAの標的配列と相互作用することで、ある種の遺伝子発現を誘導します。その結果、ビタミンAは成長促進や生殖細胞の機能維持などの機能を発揮します。一方でビタミンDは副甲状腺ホルモン(PTH)、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)などと協調的に機能して生体内カルシウム濃度の調整を行います。骨は体内のカルシウム貯蔵組織としての機能も果たしています。ビタミンDやPTH、FGF23は骨の石灰化や分解を制御して血中カルシウム濃度を適正に保つことに貢献します。
| ビタミン | 体内の分子形態 | 機能 |
| A | レチノール レチナール レチノイン酸 | 成長促進 視覚の正常化 上皮細胞の正常化 生殖機能の維持 子宮内膜、卵子、精子の正常な機能 感染予防 血管の強化、気管支の粘膜正常化、免疫細胞の機能維持 |
| D D2 D3 | カルシフェロール エルゴカルシフェロール コレカルシフェロール | カルシウム吸収誘導 カルシウムの沈着・血清濃度の調整 細胞分化調整 |
| E | トコフェロール トコトリエノール | 脂質酸化防止 細胞膜・生体膜・リポタンパク質の機能維持 |
| K K1 K2 | フィロキノン メナキノン | 血液の凝固作用 凝固因子 γ-カルボキシグルタミン酸の合成に関与 |
| B1 | チアミン | 酸化的脱炭酸反応、トランスケトラーゼ反応に関与、糖質の燃焼に関与 |
| B2 | リボフラビン | 補酵素FAD、FMNの構成成分、脂肪酸の燃焼に関与 |
| ナイアシン (B3) | ニコチン酸 ニコチンアミド | 補酵素NAD、NADPの構成成分 |
| B6 | ピリドキシン ピリドキサール ピリドキサミン | アミノ基転移反応の補酵素 |
| パントテン酸 (B5) | パントテン酸 | 補酵素Aやアシルキャリアタンパク質の構成成分 |
| ビオチン (B7) | ビオチン | カルボキシラーゼの補酵素 |
| 葉酸 (B9) | プテロイルグルタミン酸 | 1炭素単位(メチル基、ホルミル基など)転移反応の補酵素 |
| B12 | コバラミン | メチル基転移反応の補酵素 |
| C | アスコルビン酸 | プロトコラーゲンのプロリン・リジン残基の水酸化に関与 抗酸化作用 |
| ビタミン | 欠乏症 |
| A | 夜盲症、乾燥眼炎 毛嚢角化症、肺・気管支・腸・尿路などの上皮細胞角化、 成長不良、骨・歯の発育不良と変形、性腺の変性退行 |
| D D2 D3 | ビタミンD欠乏性くる病(骨の石灰化不良・変形)、 くる病性テタニー(低カルシウム血症、けいれん)、 骨軟化症,骨粗しょう症 |
| E | 赤血球性溶血(新生児、未熟児)、 感覚障害、運動失調症 |
| K K1 K2 | 血液凝固能低下、新生児出血性疾患、 骨粗しょう症(潜在的な欠乏) |
| B1 | 脚気(末梢神経障害,心不全)、 ウェルニッケ-コルサコフ症候群 *ウェルニッケ: 意識障害、ふらつき、眼球運動異常 コルサコフ: 重度の記憶障害、見当識障害、作話 |
| B2 | 口唇炎、口角炎、脂漏性皮膚炎 |
| ナイアシン (B3) | ペラグラ(皮膚炎、舌炎、消化器と中枢神経不全) |
| B6 | 痙攣性発作、神経障害、 脂漏性皮膚炎、貧血 |
| パントテン酸 (B5) | 頭痛、皮膚炎、血圧低下、 副腎機能低下 |
| ビオチン (B7) | 皮膚炎、舌炎、運動失調、皮膚の感染、 代謝性アシドーシス |
| 葉酸 (B9) | 巨赤芽球性貧血、先天性神経管欠損症、 腸機能障害 |
| B12 | 悪性貧血、 神経学的欠損(錯乱、感覚異常、運動失調) |
| C | 壊血病(出血、歯肉炎、骨欠損など) |
ビタミンの分類
ビタミンは脂溶性のビタミンと水溶性のビタミンに分けられます。脂溶性のビタミンはビタミンA、D、E、Kの4種類であり、水溶性のビタミンはB群(8種類)、Cの9種類です(図1、2)。脂溶性のビタミンは水に溶けないため、吸収するにあたり胆汁酸が関与してミセルとして取り込まれます。また、血中の輸送においてもそのままでは輸送できないため、各ビタミンごとに様々な輸送形態で輸送されます。ビタミンAはレチノール結合タンパク質(retinol-binding protein;RBP)、ビタミンDはビタミンD結合タンパク質(Vitamin D binding protein ;DBP)が輸送に関与しています。また、ビタミン E や K は VLDL や LDL のようなリポタンパク質が輸送に関与しています。一方で水溶性のビタミンの場合は食物と結合した状態から遊離させたのちに吸収され、代謝産物が尿中に排泄されます。このように脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンではその物性のため消化吸収の方式が大きく異なります。
いくつかのビタミンでは取り込まれたのちに体内で変換されて、ビタミンとなり機能するものがいくつかあります。例えば、カロテノイド(α-カロテン、β-カロテンなど)が開裂することでレチノールへ変換され、ビタミンAとして利用されるようになります。また、7-デヒドロコレステロールは皮膚で紫外線の作用によりそれぞれビタミンD3 へ変換されてビタミンDとして機能するようになります。このように生体内で変換されることでビタミンとして機能する物質のことをプロビタミンといいます。


練習問題
ビタミンは必要量こそ微量ですが、代謝、抗酸化、防御、視覚、骨代謝、遺伝子発現制御などに広く関与する重要な栄養素です。本記事では総論として全体像を整理しました。各ビタミンの詳細な作用機序や代謝については、今後個別記事で解説していきます。
参考文献
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- Peter J. Kennelly, Kathleen M. Botham, Owen P. McGuinness, Victor W. Rodwell, P. Anthony Weil 著、清水孝雄、水島昇 監訳 (2024). イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書32版. 丸善出版. pp. 633-350
- 五十嵐脩、江指隆年 編 (2011). ビタミン・ミネラルの科学. 朝倉書店. pp. 1–39
- 太田 好次. (2015). ビタミン総論. ファルマシア, 51(3), pp. 187–192.