感染症にかかったあと、同じ病原体に対して以前より素早く反応できることがあります。ワクチンによって感染や重症化を防ぎやすくなるのも、体が病原体の特徴を「記憶」できるからです。
この記憶を生み出す中心的な仕組みが獲得免疫です。獲得免疫では、T細胞とB細胞が病原体の目印を見分け、必要な細胞だけを増やし、病原体を排除します。そして戦いが終わったあとも、一部の細胞が次の侵入に備えて残ります。
この記事でわかること
- 抗原とは?
- T細胞とB細胞って?
- クローン選択説とはどんな学説?
- 抗体と細胞傷害性T細胞はどう戦うのか?
- 免疫記憶がどのように生まれるのか?

獲得免疫は「相手に合わせて戦う免疫」
私たちの体を守る免疫には、大きく分けて自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は侵入者をすばやく察知して広がりを抑える、いわば即応部隊です(詳細はこちら)。一方、獲得免疫は病原体ごとの特徴を細かく見分け、その相手に適した方法で戦う専門部隊です。
獲得免疫の反応が十分に立ち上がるまでには時間がかかります。しかし、標的を正確に見分けられ、同じ相手に再び出会ったときにはより速く、より強く反応できるという大きな利点があります。
獲得免疫が機能する4つのステップ
1.病原体の目印である「抗原」を認識する

2.抗原に反応できるT細胞・B細胞だけが選ばれて増える

3.増えた細胞が、それぞれの方法で病原体を排除する
4.一部の細胞がメモリー細胞として残る

この4ステップを順に追うと、複雑に見える獲得免疫を一つの物語として理解できます。

1.病原体の目印「抗原」を見つける
獲得免疫が見分ける物質(病原体や外来性のタンパク質など)を抗原といいます。ただし、リンパ球は抗原の全体を一つのかたまりとして見ているわけではありません。抗原の中にある特定の部分を認識しています。この認識される部分をエピトープ(抗原決定基)といいます。

T細胞は「提示された断片」を見る
T 細胞は、抗原をそのまま認識できません。樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)が病原体を取り込み、分解してできた抗原断片を細胞表面に提示します。抗原提示細胞は、MHC分子という分子に抗原断片を載せて T 細胞に抗原を提示し、T 細胞は T 細胞受容体(TCR)で MHC 分子と抗原断片の両方(複合体)を認識して活性化し、エフェクター細胞へと分化します。T 細胞の場合は MHC 分子に載せられる抗原断片をエピトープといいます。
樹状細胞などの抗原提示細胞は、敵の情報を集めて T 細胞に伝え、どのような免疫応答を起こすかを方向づける「情報将校」のような存在です。
B細胞は抗原を直接つかまえる
B 細胞は、細胞表面の B 細胞受容体(BCR)を使って抗原の形を直接認識します。BCR は、細胞膜に結合している抗体と類似した分子です。BCR は抗原の全体を認識するわけではなく一部の構造を見分けています。この一部の構造にあたる部分が B 細胞にとってのエピトープです。
2.必要なリンパ球だけを選び、増やす
体内には、異なる抗原を認識する多様な T 細胞と B 細胞があらかじめ用意されています。クローンとは、一つのリンパ球が細胞分裂によって増えたリンパ球の集団であり、このためこの集団は同一の抗原を認識することができます。
病原体が侵入すると、多数のクローンの中から、その抗原に合う受容体をもつクローンだけが活性化されます。これがクローン選択です。選ばれた細胞は何度も分裂して仲間を増やします。この過程をクローン拡大といいます。
これは、さまざまな抗原に適応した部隊を先に用意しておき、侵入してきた敵に適応した隊員だけを選んで増員する仕組みです。このようにすることでより迅速に、必要な細胞だけを増やして病原体に適した専門部隊を用意することができるのです。このあらかじめ存在する多様なリンパ球の中から、抗原に反応できるクローンが選ばれるというこの考え方をクローン選択説といいます。

3.エフェクターが実際の戦いを担う
増殖したリンパ球は、病原体を排除する働きをもつエフェクター細胞へ分化します。エフェクターとは「実際に効果を発揮するもの(effect + or)」という意味です。T 細胞と B 細胞は、それぞれ異なる方法で感染防御に貢献します。
ヘルパー T 細胞:仲間に指示を出す
ヘルパーT細胞は、サイトカインや細胞表面の分子を介して、B細胞、マクロファージ、細胞傷害性T細胞などの働きを調節する役割を担います。ヘルパーT細胞にはいくつかの種類があり、それぞれ支援する細胞や促進する免疫反応が異なります。このように、ヘルパーT細胞は免疫応答の方向性を整える「現場の指揮官」として働きます。
細胞傷害性T細胞:感染した細胞を排除する
ウイルスは細胞の内部で増えるため、細胞外を流れる抗体だけでは十分に対処できません。細胞傷害性 T 細胞は、ウイルスなどに感染した異常な細胞を見つけ、その細胞を死に導くことで感染の拡大を抑える特殊部隊です。
B細胞と抗体:細胞外の病原体を狙う
活性化されたB細胞の一部は形質細胞へ分化し、大量の抗体をつくります。抗体は誘導弾のように抗原に特異的に結合し、病原体が細胞へ侵入するのを妨げる中和、貪食細胞に見つけられやすくするオプソニン化、補体の活性化などを通じて排除を助けます。活性化した B 細胞は抗原を認識する部分を保ったまま産生する抗体の種類を切り替えることがあります。この現象はクラススイッチと呼ばれ、クラスが変わると抗体が働く場所や病原体を排除する方法が変化します。

4.戦いのあとに「記憶」が残る
病原体が排除されると、増殖したエフェクター細胞の多くは役割を終えて減少します。しかし、すべてが消えるわけではありません。一部の T 細胞と B 細胞はそれぞれ、メモリー T 細胞、メモリー B 細胞として長期間残ります。
同じ抗原が再び侵入すると、メモリー細胞は初回より速く増殖し、エフェクター細胞へ分化します。例えば、B 細胞の二次応答では、より多くの抗体が速くつくられ、抗原に強く結合する抗体が中心になることも重要です。これが、二回目の免疫応答が一般に速く強くなる理由です。

青のライン :抗原Xに対する免疫応答
オレンジのライン:抗原Yに対する免疫応答
最初の暴露(抗原に出会うこと)では抗原Xを経験しています。すると最初の暴露後にはメモリー B 細胞が残ります。その後、抗原 X と抗原 Y に同時に暴露されたとします。抗原 Y は初めて経験する抗原なので、反応が立ち上がるまでに時間がかかります。一方、抗原 X に対してはメモリー B 細胞が存在するため、初回よりも速くかつ強い二次免疫応答が起こります。
ワクチンは免疫記憶を先に準備する
ワクチンは、病原体そのものによる重い感染を経験する前に、その抗原を免疫系へ安全な形で知らせるいわば免疫の予行演習です。これによりメモリー細胞などを準備し、実際の感染時に素早く対応できる状態をつくります。ワクチンの種類や感染症によって効果の現れ方は異なりますが、基本となる考え方は免疫記憶の利用です。
免疫はなぜ自分自身を攻撃しないのか
多様なクローンを用意する過程では、自分自身の成分に反応するリンパ球が生じることもあります。その多くは、T 細胞では主に胸腺、B 細胞では主に骨髄で排除されたり、反応しにくい状態にされたりします。このように免疫が自己や特定の抗原に対して過剰に反応しないようにする仕組みを免疫寛容といいます。

自己応答性の T 細胞の一部は制御性 T 細胞へ分化します。制御性 T 細胞はほかの免疫細胞の過剰な活性化を抑えるとともに、自己応答性の免疫細胞の抑制にも関与して免疫寛容の維持に貢献します。自己に反応しない仕組みは一つだけではなく、複数の安全装置によって支えられています。これらが破綻すると、自己免疫疾患につながることがあります。
能動免疫と受動免疫の違い
感染やワクチン接種によって、自分の免疫系が抗体やメモリー細胞をつくる免疫を能動免疫といいます。成立までには時間が必要ですが、免疫記憶が形成されます。
これに対し、ほかの個体がつくった抗体を受け取る仕組みが受動免疫です。胎盤を通じて母親の抗体を受け取ることや、母乳から抗体を受け取ること、抗毒素製剤を投与することなどが受動免疫の代表例です。すぐに防御効果を得られる一方、受け取った抗体はやがて減少し、免疫記憶は移りません。

まとめ:獲得免疫を一本の流れで理解しよう
獲得免疫の本質は、単に「病原体を記憶すること」だけではありません。多数のリンパ球から必要なクローンを選び、そのクローンを増やし、役割の異なるエフェクターへ分化させ、戦いのあとに一部を記憶として残す。一連の流れ全体が獲得免疫です。
- T 細胞は、抗原提示細胞が提示するMHC分子と抗原断片の複合体を認識する
- B 細胞は、BCR を使って抗原を直接認識する
- 抗原に合うクローンだけが選択され、増殖する(クローン選択説)
- ヘルパー T 細胞は免疫応答の調節を担う
- 細胞傷害性 T 細胞は感染細胞の排除を担う
- B 細胞から生じた形質細胞は抗体を産生する
- 一部の T 細胞と B 細胞はメモリー細胞として残る
最後にもう一度、最初のイラストへ
図の左から右へ「抗原の認識→クローン選択と拡大→エフェクター機能→免疫記憶」とたどってみてください。最初に見たときよりも、細胞と矢印の意味がつながって見えるはずです。
用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 抗原 | 獲得免疫系によって特異的に認識される物質。 |
| エピトープ | 抗体やリンパ球受容体が認識する抗原の特定部分。 |
| ナイーブリンパ球 | まだ対応する抗原による活性化を受けていないT細胞またはB細胞。 |
| クローン選択 | 抗原に反応できるリンパ球クローンが選ばれること。 |
| クローン拡大 | 選ばれたリンパ球が増殖し、同じ認識能力をもつ細胞が増えること。 |
| エフェクター細胞 | 病原体排除など、免疫応答の実際の働きを担う細胞。 |
| 免疫記憶 | 同じ抗原との再遭遇時に、より速く強く応答できる性質。 |
| 惹起 | 抗原などの刺激によって、免疫応答が実際に引き起こされること |
| 感作 | 初めて抗原に接触し、その抗原に対する特異的な免疫応答を起こせる状態になること |
もう少し詳しく学びたい方へ
この記事では、獲得免疫の全体像をつかむことを目的に、獲得免疫の活性化や免疫記憶の確立にかかわる機構をできるだけシンプルに解説しました。リンパ球の種類や機能、クローン選択説など獲得免疫についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
参考
- Abbas AK, Lichtman AH, Pillai S. 分子細胞免疫学 原著第10版. 中尾篤人 監訳. 東京: エルゼビア・ジャパン; 2023. p.1–11.
- Sakaguchi, S. (2000). Regulatory T cells: key controllers of immunologic self-tolerance. Cell, 101(5), 455–458. https://doi.org/10.1016/s0092-8674(00)80856-9
- Sakaguchi, S., Sakaguchi, N., Asano, M., Itoh, M., & Toda, M. (1995). Immunologic Self-Tolerance Maintained by Activated T Cells Expressing IL-2 Receptor α-Chains (CD25) Breakdown of a Single Mechanism of Self-Tolerance Causes Various Autoimmune Diseases. https://academic.oup.com/jimmunol/article/155/3/1151/8068613