ある日、体の中で事件が起こりました

あなたの体に細菌やウイルスが侵入しました。
すると体の中では、まるで国家が侵略を受けたときのように、一斉に防衛システムが動き始めます。

警戒兵が敵を見つけ、
司令官が応援を呼び、
前線部隊が戦い、
特殊部隊が敵に乗っ取られた細胞を排除します。

実は、この一連の流れこそが自然免疫です。

まずは下の図を眺めてみてください。

「誰が何をしているのか」
それだけ分かれば、このあと自然免疫は驚くほど理解しやすくなります。

この記事で分かること

この記事では

  • なぜ自然免疫は数時間で働けるのか
  • PAMPs・DAMPs とは何か
  • PRR は何を見ているのか
  • マクロファージ・好中球・NK 細胞・樹状細胞・補体の役割
  • 自然免疫と獲得免疫のつながり

を、国家の防衛システムに例えながら学んでみましょう。

自然免疫とは…

自然免疫とは、生まれつき備わっている防衛システムです。
細菌やウイルスが侵入すると、直ちに、あるいは数時間以内に反応を始めます。
敵が誰なのかを細かく調べる前に、とにかく病原体に共通する特徴を素早く認識して行動する「初動部隊」と考えると理解しやすいでしょう。
一方で、その後に活躍するのが獲得免疫です。
獲得免疫は敵を詳しく調べ、次に同じ敵が来たときにはより速く戦えるよう記憶します。
つまり、

  • 自然免疫=初動部隊
  • 獲得免疫=専門部隊

という役割分担になっています。

自然免疫にかかわる細胞はどうやって病原体を見分けるの?

自然免疫は PAMPs や DAMPs といった分子を認識することで活性化されます。

PAMPs:
病原体には特徴的な分子構造があります。
細菌なら細胞壁(LPS やペプチドグリカンなど)、ウイルスなら二本鎖 RNA などの特徴的な核酸など、
病原体に特徴的なこの構造はいわば病原体の旗印のようなもので、PAMPs と呼ばれます。
自然免疫に関与する細胞たちはこの旗印によって病原体を認識して攻撃しているのです。

DAMPs:
病原体などによって自分の細胞が傷つけられると特徴的な分子が放出されます。
これらの分子は火事で発生する煙のように自己細胞の SOS 信号です。
DAMPs と呼ばれ、自然免疫が認識して活性化する分子です。
このような DAMPs の認識をきっかけに炎症反応や組織修復が始まります

PRR:
免疫関連細胞は PAMPs や DAMPs を認識していますが、この認識には PRR が利用されています。PRR は双眼鏡のようなもので PAMPs や DAMPs を見つけることに役立ちます。なお、実際には PRR には様々なものが存在して対応する PAMPs や DAMPs の認識を担っています。

自然免疫で機能する細胞たち

前線部隊の司令官 マクロファージ

 マクロファージは様々な組織に配置されて病原体を見張っている細胞です。
 マクロファージが病原体を発見すると、以下のような働きをします。

  • 病原体を貪食して分解する
  • サイトカインを放出して周囲の免疫関連細胞を活性化
  • ケモカインを放出して好中球のような免疫細胞を誘引

 まさに、前線部隊と前線司令部の役割を担っています。

最前線に動員される強力な殲滅部隊 好中球

 好中球は非常に数が多く、マクロファージなどの作用によって誘引されると多数の好中球が集まって病原体を攻撃します。マクロファージや好中球による病原体排除では、貪食が重要な働きの一つです。病原体を細胞内に取り込み、内部で殺菌・分解します。この作用は、細胞が病原体を「食べている」ように見えることから貪食と呼ばれ、このような働きを持つ細胞を貪食細胞といいます。

獲得免疫へ情報を伝達する情報将校 樹状細胞

 樹状細胞は木の根や枝のような仮足を持つ細胞で、貪食作用も持ちますが、取り込んだ病原体の情報を T 細胞に伝達する抗原提示細胞としての機能も持っています。つまり、樹状細胞は前線の情報を整理して獲得免疫へ取り次ぐ情報将校のような役割を担います。獲得免疫はこうして渡された情報をもとに、ヘルパー T細胞による B 細胞の活性化促進、細胞傷害性T細胞の活性化、ヘルパー T 細胞によるマクロファージの機能増強など、最適な細胞と反応を選択してより効率的な病原体の排除が誘導されます。

※この図は少し情報量が多いので、まず『樹状細胞が病原体の情報を T 細胞へ渡す』ことだけ押さえてください。

スパイを見つけて対応する特殊部隊 NK細胞

 ウイルスや一部の細菌は細胞に感染して細胞内に寄生します。このような乗っ取られた細胞はウイルスや細菌が増殖する場となってしまうため排除されなければなりません。ナチュラルキラー細胞(NK 細胞)はこのようなウイルス感染などによって異常になった細胞を見つけて排除する役割を担っています。いわばスパイを見つけて殺傷する特殊部隊です。

敵を見つけて警鐘を鳴らす、監視哨 マスト細胞

 マスト細胞は前線を警戒して敵を見つけたら警報を鳴らす監視役(監視哨)です。マスト細胞が病原体を見つけると(PRR による PAMPs の認識)、炎症性サイトカインの産生・放出が誘導されます。また、マスト細胞は顆粒というヒスタミンなどを含む小さな袋を多数持っており、マスト細胞が強く活性化されると、顆粒が細胞膜と融合して内容物を細胞外へ放出します。この現象を脱顆粒と呼びます。マスト細胞の脱顆粒は IgE を介した抗原認識によっても強く誘導されます。マスト細胞表面に結合しているIgEが抗原によって互いにつなぎ合わされる(架橋される)と、マスト細胞が活性化され、ヒスタミンなどが放出されます。

貪食細胞

 貪食細胞とは貪食脳を持つ細胞の総称です。代表的な貪食細胞には以下のものあります。

  • マクロファージ
  • 好中球
  • 樹状細胞

 T 細胞に対する抗原提示では貪食後に分解された病原体の破片が提示されます。貪食細胞の中でもマクロファージや樹状細胞は抗原提示を担いますが、特に樹状細胞は、ナイーブ T 細胞を活性化する能力に優れています。このような抗原提示を担う細胞は抗原提示細胞と呼ばれ、T 細胞の活性化を担う点で重要です。


※ナイーブT細胞:
「ナイーブ(naive)」とは、「未経験の」という意味を持つ言葉です。ナイーブT細胞は、抗原に出会っておらず、刺激と活性化を受けていない T 細胞を指します。抗原提示細胞から抗原の刺激を受けると活性化し、増殖・分化して、それぞれの免疫機能を発揮するようになります。

自然免疫で機能する分子たち

 自然免疫では細胞だけが働くわけではありません。ある種のタンパク質も機能します。代表的なタンパク質は補体です。補体は多数のタンパク質で構成される複雑なシステムで、前線で自律的に機能する多機能なドローン部隊のようなものです。病原体が侵入すると連鎖的に活性化し、主に次のような働きをします。

  • 細胞傷害活性:膜侵襲複合体(MAC)を形成し、一部の病原体の膜にチャネル(穴)を形成して病原体を傷害します。
  • 炎症性メディエーター:補体が機能する過程で放出される様々な断片(C3a・C5aなど)は炎症応答を誘導します。
  • オプソニン化効果:病原体上に沈着した補体成分(C3b など)は、病原体を貪食細胞に取り込まれやすくします。

※補体系を構成する因子は補体成分と呼ばれます。

【コラム】免疫学でよく使用される用語について

免疫学では特徴的な表現が多用されます。その中で分かりにくいものについて説明します。

  • 亢進:
    ”亢進”とは物事の勢いや度合いが激しくなることを指す言葉です。免疫学では細胞の機能をより強くする場合に使用されます。例えば「貪食作用が亢進する」とは、貪食する働きが強くなることです。
  • メディエーター:
    免疫系では炎症などの機能を誘導したり増強するときに、このシグナルを媒介する物質(サイトカインやプロスタグランジンなど)が放出される場合があります。これらの物質は媒介を意味する英語(mediate)から、メディエーターと呼ばれます。
  • エフェクター:
    免疫系では、病原体を殺傷したり、毒素を中和したりするなど、免疫応答において実際の作用を担う細胞や分子をエフェクター(effector)と呼びます。エフェクターとは「効果を及ぼすもの」という意味です。例えば、T 細胞や B 細胞には、まだ抗原に出会っておらず本格的な機能を発揮する前のナイーブ T 細胞やナイーブ B 細胞が存在します。これらが抗原刺激を受けて活性化・分化し、実際の免疫機能を担うようになった細胞は、ナイーブ細胞と区別してエフェクター細胞と呼ばれます。

 このように、異物が侵入すると PAMPs や損傷を受けた細胞に由来する DAMPs を識別して免疫関連細胞が活性化されます。これらの免疫関連細胞は病原体を貪食したり、サイトカインやケモカインを放出して好中球などを動員します。さらに、樹状細胞のような抗原提示細胞は獲得免疫へ抗原を提示することでどんな病原体が侵入し敵なのかを知らせます。獲得免疫の T 細胞はこの情報をもとに最適な対応をする準備を整えます。一方で補体は病原体を攻撃して排除します。補体はオプソニン化のように貪食作用を亢進する作用や炎症を誘導する役割を担っています。このように自然免疫は、あらかじめ備わっている PRR を使って PAMPs や DAMPs を認識できるため、病原体の侵入後すぐに応答を開始できるのです。

もう少し詳しく学びたい方へ
 この記事では、自然免疫の全体像をつかむことを目的に、PAMPs・DAMPs・PRRや免疫細胞の役割をできるだけシンプルに解説しました。PRRの種類や具体的なPAMPs・DAMPs、サイトカイン・ケモカイン、自然免疫と獲得免疫の連携についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

参考文献

  • Abbas AK, Lichtman AH, Pillai S. 分子細胞免疫学 原著第10版. 中尾篤人 監訳. 東京: エルゼビア・ジャパン; 2023. p.1–11.
  • El Chamy, L., Leclerc, V., Caldelari, I., & Reichhart, J.-M. (2008). Sensing of “danger signals” and pathogen-associated molecular patterns defines binary signaling pathways “upstream” of Toll. Nature Immunology, 9(10), 1165–1170. https://doi.org/10.1038/ni.1643
  • Matzinger, P. (2002). The danger model: a renewed sense of self. Science (New York, N.Y.), 296(5566), 301–305. https://doi.org/10.1126/science.1071059
  • Sandig, H., & Bulfone-Paus, S. (2012). TLR signaling in mast cells: Common and unique features. In Frontiers in Immunology (Vol. 3, Issue JUL). https://doi.org/10.3389/fimmu.2012.00185