多糖は、単糖が多様な結合様式で連結した結果、きわめて多彩な性質を示す物質です。たとえば同じグルコースからなる多糖でも、β(1→4)結合で連結したセルロースは鎖が直鎖状になりやすく、分子内・分子間の水素結合や高い結晶性によって強固な構造をとります。これに対し、α(1→4)結合を主鎖とし、α(1→6)結合による分岐をもつ多糖(デンプンやグリコーゲンなど)は、鎖が密に整列しにくく水和しやすいため、膨潤や粘性といった性質を示します。
 このように、多糖の性質は構成単糖の種類だけでなく、結合様式や分岐の有無によっても大きく変化します。本記事では代表的な多糖について、種類(ホモ多糖/ヘテロ多糖)や命名の考え方も含め、構造・特徴・応用例を整理します。

多糖の種類と命名について

 多糖は構成する糖(または糖誘導体)の種類やその順番のみならず、分岐の有無によって性状が大きく異なってきます。多糖は様々な生物や食品、医薬品に含まれており、その機能性は多様です。この記事では多種多様な多糖類の内、代表的なものについて紹介していきます。

多糖の種類

 ホモ多糖(homopolysaccharide):同一の単糖が重合してできた多糖のことです
 ヘテロ多糖(heteropolysaccharide):2種類以上の単糖が重合してできた多糖のことです
命名方法:語尾の -ose を -an に変換して命名します
     例:グルコース(glucose)から成る多糖=グルカン(glucan
       マンノース(mannose)から成る多糖=マンナン(mannan
       グルコースとマンノースから成る多糖=グルコマンナン(glucomannan

最も身近な多糖、グルカン(glucan)

 グルカンはグルコースがいろいろなパターンで重合してできた多糖類です。以下に代表的なグルカンを紹介していきます。

植物の貯蔵物質、デンプン(starch)

 デンプンは植物の貯蔵物質としてよく知られている物質です。αデンプンβデンプンが存在しています。
 αデンプンとβデンプンについては、お米を例に紹介するとわかりやすいと思います。生米をそのまま食べる人というのはあまりいないと思います。生米中のデンプンはβデンプンであり、結晶性をもつため固い構造をしています。水を加えて加熱すると、デンプンの結晶構造が崩れて膨潤しゾル(粘性を持った液状のコロイド)となります。この状態はαデンプンと呼ばれ、αデンプンに変化する現象をα化(糊化)といいます。αデンプンは柔らかく、嗜好性も上昇し、消化効率も良くなります。一度炊いたお米を放置すると固くなってしまうのはαデンプンが再結晶化してβデンプンとなりゲル化するβ化(老化)のためにおこる現象です(図1)。このようにα化・β化は温度や時間に関連して可逆的に起こるとても身近な現象です。

図1.αデンプンとβデンプンの特徴とα化・β化

アミロース(amylose)とアミロペクチン(amylopectin)はデンプンの部分構造

 デンプンはアミロース(amylose)アミロペクチン(amylopectin)と呼ばれる二つの構造からできています。
 アミロースは以下のような特徴を持つ多糖です(図2)。

  • D-グルコースが α(1→4) 結合で連結した多糖
  • 6残基で一周するらせん構造を持つ
  • ヨウ素デンプン反応では強い青色を呈します。
図2.アミロースの構造

*ヨウ素デンプン反応(Starch iodine reaction):ヨウ素をデンプンに作用させるとヨウ素がらせん構造の中に保持されることで呈色反応を示す(図3)

図3.アミロースのヨウ素デンプン反応

 一方で、アミロペクチンの特徴は以下の通りです(図4)。

  • 数千残基程度で構成されているかなり大きな分子。
  • 主な鎖はD-グルコースが α(1→4) 結合で連結した多糖
  • 20 ~ 25 残基ごとに一回程度α(1→6) 結合による分枝
  • ヨウ素デンプン反応で紫~赤色
図4.アミロペクチンの構造

グリコーゲン(glycogen)、動物の貯蔵物質

 アミロペクチンと似た物質ですが、数万残基程度で構成されているアミロペクチンよりもさらに大きな分子です。主な特徴を以下にまとめます(図5)。

  • 主な鎖はD-グルコースがα(1→4) 結合で連結した多糖
  • 8 ~12 残基ごとに一回程度 α(1→6) 結合による分枝
  • ヨウ素デンプン反応で褐色
図5.グリコーゲンの構造

植物の細胞壁の構成成分、セルロース(cellulose)

 セルロースといえば、植物細胞の細胞壁を構成する成分で、植物に形や硬さ、強靭さを与えている成分です。以下に特徴を示します(図6)。

  • D-グルコースがβ(1→4) 結合で連結した多糖
  • 各分子が一つ置きに逆向きに配置し、直鎖状の(まっすぐな)構造を持つ
  • 分子間の水素結合により結晶性を示し(規則正しく整列し)、強固な構造をとる
  • 非結晶部分の配合具合により繊維の強さ、たわみ性、弾力、染色性、吸湿性などが決まる
図6.セルロースの構造

表に各グルカンの特徴をまとめます。

分子名結合様式分枝ヨウ素デンプン
反応
備考
結合様式頻度
アミロースα(1→4)なし強い青色らせん構造
(6残基/周)
アミロペクチンα(1→4)α(1→6)20~25残基ごと紫~赤色枝分かれのある巨大分子
(数千残基)
グリコーゲンα(1→4)α(1→6)8~12残基ごと褐色動物の糖貯蔵体
セルロースβ(1→4)なし直鎖構造
分子間水素結合による結晶構造
表.各グルカンの特性 まとめ

様々なセルロースの誘導体

セルロースの誘導体には硝酸エステルがあり(ニトロセルロース; nitrocellulose)、火薬の原料となります(図7)。一方、酢酸エステルはアセチルセルロース(acetylcellulose)あるいは酢酸セルロース(cellulose acetate)として知られており、不燃性フィルム、ラッカーなどに利用されています(図7)。

図7.ニトロセルロースの構造(左)とアセチルセルロース(右)

多糖および多糖誘導体の応用例

フィルターに利用される酢酸セルロース

 生命科学系の研究・開発では試料をろ過滅菌する場面がよくあります。ろ過滅菌というのは 0.2 μm 程度の孔サイズを持つフィルターを通すことでバクテリア等(直径1~数μm)をトラップすることによる滅菌手法です。この際のフィルターは酢酸セルロースが使用されていることが一般的です。

透析膜にはセルロースを利用する

 生命科学系の研究開発では精製した試料の中に精製のために添加した余分な成分が含まれていることがあります。このような成分を除くために透析をします。透析というのはセルロースの袋の中に試料を入れて、適当な緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液など)の中に浮かべて攪拌する操作のことです。セルロース膜にはきわめて小さな穴が開いていて低分子の物質だけがセルロース膜外に拡散していき、タンパク質など大きな分子はセルロース膜の内部にとどまります。このようにすることで余分な成分の濃度だけを極めて低下させることができます。

生命科学研究の場で大活躍のデキストラン(dextran)

 D-グルコースが α(1→6) 結合でつながった主鎖と、主鎖からα(1→3) 結合で枝分かれしている多糖で、ある種の細菌により合成される物質です(図8)。生命科学にとってはとても重要な物質で、ゲルろ過クロマトグラフィーカラムの担体に使用される物質です。

図8.デキストランの構造

 ゲルろ過クロマトグラフィーというのはいろいろな物質が混ざっている試料を分子サイズごとに分離する実験手法です(図9)。ゲルろ過カラムの中には小さな穴が開いた担体が充填されています。そこにいろいろな分子サイズの物質を含む試料を流すと分子サイズごとにカラムを通り抜ける速度が変わります。分子サイズの大きなものは担体に空いた穴に入り込むことができないので、カラムを通り抜けるスピードが速くなります。一方で小さいサイズの分子は担体の穴の中に入り込むため、通り抜ける速度が遅くなります。さらに小さい分子は穴のさらに奥まで入り込むためなかなかカラムから出てきません。この速度差を利用することで分子サイズの異なる物質を分離することができます。このような実験手法をゲルろ過クロマトグラフィーといいます。

図9.ゲルろ過クロマトグラフィーの原理の概念

 デキストランは穴を持つ構造を作ることができるという点や、安定であり他の分子と化学反応を起こしにくい、他の分子を吸着しにくいなど優れた特徴があるためゲルろ過クロマトグラフィーの担体として利用されます。

食物繊維として知られているマンナン(mannan)

図10.マンナンの構造

 マンナンはこんにゃくに豊富に含まれていることで有名な多糖です。皆さんも聞いたことはあるのではないでしょうか?
 マンナンの構造はマンノースが β(1→4) 結合でつながっていて、通常天然のマンナンでは他の単糖を含むことが多いです(図10)。なお、こんにゃくにはグルコースとマンノースがβ(1→4)結合で連結しているグルコマンナンが多く含まれています。

料理や食品で大活躍の寒天(agar)

 寒天も食品でよく知られている多糖です。料理をされる方は知っている方も多いのではないかと思います。寒天は強いゲル化力を持ち、食品や微生物培地の固化剤として使用されます。以下に寒天の構造について記載します。
 寒天はアガロース (agarose) とアガロペクチン (agaropectin) の2成分より成り立っています。

アガロース(agarose)

 D-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースがβ(1→4)結合とα(1→3)結合で交互につながった構造をしています(図11)。ここで3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースについて少し触れておきます。”アンヒドロ” とは二つの水酸基から水が脱離して環状エーテル結合をとったものを言います。その前の 3,6- は水酸基が取れた位置のことを表します。その後ろの L-ガラクトースはもちろん基本骨格を指します。この場合は L 体なので気を付けてください。

図11.アガロースの構造

アガロペクチン(agaropectin)

 アガロースがベースの構造で少量のピルビン酸、D-グルクロン酸、硫酸が結合した構造をしています(図12)。

図12.アガロペクチンの構造

ジャムやお菓子でよく使用される多糖、ペクチン質(pectic substances)

 ペクチン質の構造について記載します。ペクチン質は主にD-ガラクツロン酸が α(1→4) 結合してつながった構造のペクチン酸(pectic acid; 図13上)で、一部がメチルエステル化したペクチニン酸(pectinic acid; 図13下)に変わっています。ゲル化する特性のためジャム、マーマレードなどで粘性を持たせるために使用されます。

図13.ペクチン酸(上)とペクチニン酸(下)の構造

生理的に重要な多糖、ムコ多糖(mucopolysaccharide)

 ヘキソサミン(六炭糖のアミノ糖)を構成成分とする多糖です。以下に代表的なムコ多糖を紹介します。様々な生理活性を発揮する多糖ですので、参考にしてみてください。

甲殻類の殻の成分、キチン(chitin)

 N-アセチル-D-グルコサミン (D-GlcNAc) が β(1→4) 結合でつながった多糖です(図14)。ちなみに()内に記載しましたが、N-アセチル-D-グルコサミンの省略形は D-GlcNAc と書きます。D-Glc は D-グルコースのことを意味します。NAc の N はアミノ基の窒素を意味し、Ac とはアセチル基(COCH3)のことを意味しています。つまり NAc はアミノ基の窒素にアセチル基が結合していることを意味しています。
 さて、キチンの構造はセルロースに類似した直鎖状をしています。セルロースも強靭な多糖でした。やはりキチンも硬い多糖で甲殻類の甲殻や昆虫の外皮、菌類の細胞壁に含まれています。N-アセチル-D-グルコサミンの原料として用いられています。

図14.キチンの構造

※N-アセチル-D-グルコサミンの命名について

 ここで、N-アセチル-D-グルコサミンについて少し説明しておきます。N は窒素原子のことを意味しています。つまり、N- とは窒素にそのあとの置換基が結合していることを意味しています。次にD-グルコサミンはグルコースにアミノ基が結合しているアミノ糖を意味します。したがって N-アセチル-D-グルコサミンは D-グルコースにアミノ基が結合したアミノ糖-D-グルコサミンをベースとして、この分子のアミノ基の窒素にアセチル基が結合した構造という意味になります。

関節や粘膜にとって重要なヒアルロン酸 (hyaluronic acid)

 ヒアルロン酸も有名な多糖です。眼球のガラス体、臍帯、関節滑液、骨粘膜に含まれており、衝撃の緩和や保水などの役割を担っています。構造は D-グルクロン酸と N-アセチル-D-グルコサミンが β (1→3) 結合とβ (1→4) 結合で交互につながっている構造をとっています(図15)。

図15.ヒアルロン酸の構造

組織の構造を強靭にする多糖、コンドロイチン硫酸 (chondroitin sulfate)

 コンドロイチン硫酸 A は D-グルクロン酸と N-アセチル-D-ガラクトサミンが交互につながっている構造をとっており、二糖あたり1つの硫酸エステル(図16赤字)を持っています(図16)。コンドロイチン硫酸にはいくつかの種類がありますが、硫酸エステルの位置によりA、Cが変わります。図16の(B)に示したように N-アセチル-D-ガラクトサミンの 4 位に硫酸エステルが結合しているものをコンドロイチン硫酸 A といいます。一方で図16の(C)に示したように N-アセチル-D-ガラクトサミンの 6 位に硫酸エステルが結合しているものをコンドロイチン硫酸 C といいます。さらに、図16の(D)に示したようにコンドロイチン硫酸 A の D-グルクロン酸が L-イズロン酸(L-イドースのウロン酸)に変わったものをコンドロイチン硫酸 B といいます。
 コンドロイチン硫酸は軟骨、脛靭帯、角膜、血管壁、腱にタンパク質と結合して存在しています。これらの組織は引っ張りに強かったり弾力が必要だったりします。そこで、コンドロイチン硫酸が結合組織の弾力、抗張力(引っ張りに耐える力)を与えています。

図16.コンドロイチン硫酸の基本構造(A)。コンドロイチン硫酸 A の構造(B)コンドロイチン硫酸 C の構造(C)コンドロイチン硫酸 B の構造(D)

血漿分離で利用されるヘパリン(heparin)

 ヘパリンは D-グルクロン酸と N-アセチル-D-グルコサミンがα (1→4) 結合でつながった構造をしており、いろいろなところに硫酸エステルが結合しています(図17)。体内では肝臓に多く、リンパ腺、肺、心臓、筋肉にも見られます。
 さて、ヘパリンの重要な特性の一つに血液凝固阻止作用があります。この特性のためヘパリンは血漿の分離に利用されます**

**血清と血漿について

血液を採取したのち、しばらく放置すると凝固因子の作用で血液が凝固します。凝固した血液を遠心分離で分離すると、透き通った上清と血球や凝固因子の沈殿に分かれます。この際の上清を血清(serum)といいます。血清では凝固因子(特にフィブリノーゲン)は固めて除去されてしまうため、ほとんど含まれません。一方で凝固阻害剤を使用して採血したのちに遠心分離すると赤黒い赤血球層が一番下にたまり、白くて薄い白血球層(buffy coat)と透き通った上清に分かれます。この上清のことを血漿(plasma)といいます。この方法では凝固因子を除去する工程がないので、得られた血漿には凝固因子が含まれています。ちなみに、赤血球はもちろん酸素運搬に関与する血球ですが、白血球層にはリンパ球や単球、好酸球、好塩基球などの免疫関連細胞を多く含みます。さて、白血球などの血球を分離しようと思ったとき、血清分離するときのように凝固させてしまうと凝固因子によって血球ごと固まってしまい分離することができません。このような場合にはヘパリンのような凝固阻害剤を利用して分離することで白血球を分離することが可能となります。

図17.ヘパリンの構造

練習問題

アミロース・アミロペクチン・グリコーゲン・セルロースの比較図

図の (a) ~ (l) に当てはまる表現を、下の語群から選び、 対応する枠にドラッグ&ドロップ(タップ操作)しなさい。

(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
(g)
(h)
(i)
(j)
(k)
(l)

応用例と多糖名の正しい組み合わせを 1つ 選べ。
※本文で紹介した「酢酸セルロース/セルロース/デキストラン」の応用から出題します。

ゲルろ過クロマトグラフィーに関する記述で正しいものをすべて選べ。

寒天を構成する2成分を選べ(複数選択可)。

アガロース、グルコマンナン、ペクチン、キチンを構成する糖と結合様式として正しいものを選べ。
※タイルをクリック → 対応する枠をクリックして配置してください。

構成糖
アガロース(構成糖)
グルコマンナン(構成糖)
ペクチン(構成糖)
キチン(構成糖)
結合様式
選択肢(タイルをクリック → 枠をクリックで配置)

アガロペクチンに関する記述で正しいものを選べ。

コンドロイチン硫酸の記述として正しいものを選べ。

ヘパリンの記述として正しいものをすべて選べ。

参考文献

  1. 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
  2. Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
  3. John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
  4. K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486

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