糖鎖は多数の水酸基を持ち、それぞれが“ソケット”のように結合に使われる可能性をもっています。しかし、水酸基はすべて同じ性質ではなく、立体配置や周囲の環境によって反応性が大きく変わります。どの位置のソケットが使われるかで、糖鎖の構造や性質は大きく変化します。
 特に重要なのが ヘミアセタール(ヘミケタール)水酸基=バルブ付きソケット です。この位置が自由であれば電子を供与することができ、還元性を示しますが、結合に使われると性質が大きく変わります。
 したがって、糖鎖を理解するうえで重要なのは次の二点です。

  1. どの水酸基が結合に用いられているのか?
    ─ これは糖鎖の立体構造や分岐パターンを決定します。
  2. ヘミアセタール(ヘミケタール)水酸基(アノマー位の水酸基)が結合に使われているか?
    ─ これはその糖鎖が還元性を持つかどうかを含む、化学的な反応性に関わります。

 以降では様々な単糖から構成される重合体を取り上げます。構造を見る際には、特にこの二点を意識しながら読み進めてください。

 一方でオリゴ糖には独特な特性を持つものがあります。今回は代表的な例としてシクロデキストリンを紹介します。この物質は様々な有効成分を運ぶトラックのような役割を果たす分子としてとても有用な物質です。
 今回は二糖~オリゴ糖について基本的な事項から応用までを紹介します。

代表的な二糖類

ラクトース(Lactose)

 ラクトースはガラクトースの 1 位の水酸基(アノマー位の水酸基)とグルコースの 4 位の水酸基がβ(1→4)グリコシド結合した二糖です。一方でラクトースはグルコースのアノマー位の水酸基は自由な状態にあるので、以下のような特性を持ちます(図1)。

  • α 体、β 体、開環形で平衡状態をとる(変旋光を示す)
  • 還元性を示す=還元糖(reducing sugar)
図1.ラクトースの構造

スクロース(sucrose)

 スクロースはグルコースの 1 位の水酸基(アノマー位の水酸基)とフルクトースの 2 位の水酸基(ヘミケタール水酸基)がα(1→2)結合している二糖です。すべてのアノマー位の水酸基が結合に利用されているため、以下のような特性を持ちます(図2)。

  • 開環形を持たない(変旋光も示さない)
  • 還元性を持たない;非還元糖(non-reducing sugar)
図2.スクロースの構造

 スクロースを加水分解すると D-フルクトースと D-グルコースの混合物が得られます。スクロースの甘味を 100 とすると D-フルクトースの甘味は 170、D-グルコースの甘味は 70 くらいになります。その結果、より甘みの強いD-フルクトースが生成されることから甘さが増すことになります(図3)。このような糖のことを転化糖(invert sugar)といいます。加水分解するだけで甘味が増幅するという面白い例ですね。

図3.転化糖の生成

マルトース(maltose)

 マルトースはα-D-グルコースの1位の水酸基(アノマー位の水酸基)ともう一方のD-グルコースの 4 位の水酸基がα(1→4)グリコシド結合した二糖です。片方のグルコースのアノマー位の水酸基は残っているため、以下の特性を持ちます(図4)。

  • α 体、β 体、開環形で平衡状態をとる(変旋光を示す)
  • 還元性を示す;還元糖(reducing sugar)

 デンプンを β-アミラーゼで加水分解すると、非還元末端から二糖ずつ切り出されますので、マルトースが得られます。

図4.マルトースの構造

セロビオース(cellobiose)

 セロビオースはβ-D-グルコースの1位の水酸基(ヘミアセタール水酸基)ともう一方のD-グルコースの 4 位の水酸基がβ(1→4)グリコシド結合した二糖です。片方のグルコースのアノマー位の水酸基は残っているため、以下の特性を持ちます(図5)。

  • α 体、β 体、開環形で平衡状態をとる(変旋光を示す)
  • 還元性を示す;還元糖(reducing sugar)

 この糖はセルロースをセルラーゼで加水分解すると得られます。
 マルトースとセロビオースはよく似ていますが、マルトースは α (1→4) 結合しています。ですので、α-D-グルコースの重合体であるデンプンを加水分解することで、マルトースが得られます。一方でセロビオースは β (1→4) 結合していますので、 β-D-グルコースの重合体であるセルロースを加水分解することで得られます。

図5.セロビオースの構造

オリゴ糖

ラフィノース(raffinose)

 ラフィノースはスクロースのグルコースの 6 位の水酸基と α-D-ガラクトースのヘミアセタール水酸基でα(1→6)結合した三糖です(図6)。ラフィノースを構成する糖のアノマー位の水酸基がすべて結合に利用されているため、還元性を示しません(非還元糖)。
 ラフィノースはスクロースに次いで植物界に多く存在するオリゴ糖です。

図6.ラフィノースの構造

アミノ糖の誘導体を含む抗生物質

 細菌などの微生物の増殖を抑制したり、微生物を殺すような物質のことを抗生物質といいます。抗生物質の多くは微生物由来であり、微生物がほかの生物から身を守るために分泌・産生する物質です。抗生物質は化学的構造によっていくつかに分類されています。アミノグリコシド系抗生物質はアミノ糖の誘導体でストレプトマイシンやカナマイシンが代表的です(図7)。
 ストレプトマイシン (streptomycin) は放線菌によって産生される抗生物質で、タンパク質合成を阻害して発育を妨げる効果があります。カナマイシン (kanamycin) は土壌から分離された放線菌が産生する抗生物質で、タンパク質合成を阻害して発育を妨げる効果があります。

シクロデキストリン(cyclodextrin)

 シクロデキストリンはグルコース 6 ~ 8 分子が α(1→4) 結合して環状構造を形成している物質です(図8)。なお、構成する分子数によって環状構造の内側の直径は以下のように異なっています。

  • 6 分子:径= 0.6 nm
  • 7 分子:径= 0.7 ~ 0.8 nm
  • 8 分子:径= 0.9 ~ 1.0 nm
図8.シクロデキストリンの構造

 シクロデキストリンはユニークな物質で、内側が疎水性、外部が親水性になっていて内部に疎水性分子を安定的に保持することができます。この時、この複合体を形成する各分子を以下のように呼びます(図9)。

  • 取り込まれる分子:ゲスト分子
  • 包み込む分子(シクロデキストリン):ホスト分子
  • 内部と外部の化合物が形成する複合体:包接化合物

 この特性は応用上きわめて有用です。具体的な用途は以下のようなものが知られています。

  • 揮発性の高い物質(香料など)の安定化
  • 強い苦みを持つ物質(薬物成分など)の苦みの緩和
  • 疎水性の分子の可溶化

 このように、シクロデキストリンは食品、医薬、化粧品など、さまざまな分野で幅広く利用されています。

図9.シクロデキストリンの応用

糖配列の略記法について

 単糖や糖残基を表記する際に三文字表記がよく使用されます。三文字表記は例えばグルコースでは Glc、ガラクトースなら Gal などです。β-D-ガラクトースなら “β-D-Gal” と表記されます。
 ところで、環状の単糖はピラノースとフラノースに分類されるのでした。これらを表現するのに p(ピラノース)、f(フラノース)を使用します。例えば D-グルコピラノースは “D-Glcp” D-フルクトフラノースは “D-Fruf” と記載します。
 最後に脱水縮合している水酸基の位置は “1→4″ という具合に表します。”1→4” と表す場合、1 位の水酸基と次の分子の 4 位の水酸基が縮合していることを表現しています。
 さて、表記方法を確認したところで実際に記載してみましょう。図10を見てください。ここではラクトースの構造を記載しています。ラクトースは β-D-ガラクトースの 1 位の水酸基と D-グルコースの 4 位の水酸基が脱水縮合して結合しています。なお、グルコースはヘミアセタール水酸基がフリーなので α 体も β 体も取りえます。さて、これを表現してみましょう。

  • 表記法1:β-D-Galp-(1→4)-D-Glcp
  • 表記法2:β-Gal-(1→4)-Glc

となります。表記法1は省略なしで書いたバージョンです。表記法2はさらに省略したバージョンです。表記法2ではガラクトースやグルコースはピラノースしかとらないので “p” を省略しています。さらに天然の糖はほとんどが D 体ですのでこれも省略します。したがって、表記法2では「β-Gal-(1→4)-Glc」となります。

図10.ラクトースの糖配列表記

 もう一つ例を見てみましょう。図2にスクロースの構造を記載しています。この分子は α-D-グルコースの 1 位の水酸基と β-D-フルクトースの2位の水酸基が脱水縮合して結合しています。これを表現すると

  • 表記法1:α-D-Glcp-(1→2)-β-D-Fruf
  • 表記法2:α-Glc-(1→2)-β-Fru

となります。この場合も表記法2ではピラノースを表すp とフラノースを表す f が省略されています。

図11.スクロースの糖配列表記

各糖の3文字表記と構造

 以下に各単糖の構造と三文字表記を記載します。参考にしてください。

アルドース (aldose)

図12.アルドースの種類と構造
図13.ケトースの種類と構造

※トリオースとテトロースには三文字表記が規定されていません(IUPAC)

 さて、ケトースのジヒドロキシアセトンについては不斉炭素原子がないので立体異性体は存在しませんので注意してください。また、アルドースでは末端の炭素原子以外の炭素原子がすべて不斉炭素原子です。一方でケトースでは末端の炭素原子とケト基の炭素原子以外が不斉炭素原子となります。ですので、ケトースはアルドースと比べて不斉炭素原子が1つ少なくなりますので、ケトースの方が全体的に種類の数が少なくなります

練習問題

次の糖のうち、還元性を示すものをすべて選べ(複数選択可)。

「アノマー位の水酸基が結合に参加する」と影響を受ける性質をすべて選べ(複数選択可・正解は2つ)。

スクロース、マルトースおよびラクトースの構造の記載として正しいものを、それぞれ対応する枠に1つずつドラッグ&ドロップしなさい(残り2つは使わない)。

スクロース
マルトース
ラクトース

カナマイシンやストレプトマイシンに共通して含まれる構造は何か?
次の中から 1つ 正しいものを選びなさい。

シクロデキストリンの機能として適切なものをすべて選べ。
※正しいものを 3つ 選びなさい。

シクロデキストリンに特定分子を取り込ませる場合に用いる語の説明として適切なものを、それぞれ対応する枠にドラッグ&ドロップしなさい。
※各枠には 1つずつ タイルを入れ、余ったタイルは使用しなくてよい。

包接化合物
ホスト分子
ゲスト分子


今回は、二糖やオリゴ糖を取り上げ、
「どの水酸基が結合に使われるか?」
「アノマー位の違いがどれほど性質を左右するか?」
といった、糖化学の核心となるポイントを整理しました。

そして、抗生物質やドラッグキャリアとして働く分子が多いように、
これらの小さな糖鎖は生体機能・応用研究の両面でとても重要です。

ぜひ今回の内容を繰り返し見返しながら、
“糖がどのようにつながるかによって性質がどのように変わるのか” を自分のものにしてみてください。

参考文献

  1. 島原健三 (1991). 概説 生物化学. 三共出版. pp. 5-34
  2. Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Gregory J. Gatto Jr., Lubert Stryer著、入村達郎、岡山博人、清水孝雄、中野徹訳 (2018). ストライヤー生化学 第8版. 東京化学同人. pp. 290-313
  3. John McMurry著、伊東椒、児玉三明訳 (2000). マクマリー有機化学 第4版. 東京化学同人. pp. 439-470
  4. K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore著、古賀憲司、野依良治、村橋俊一、大嶌幸一郎、小田嶋和徳、小松満男、戸部義人訳 (2020). ボルハルト・ショアー現代有機化学 第8版. 化学同人. pp. 1425-1486
  5. McNaught, A. D. (1996). Nomenclature of carbohydrates (IUPAC Recommendations 1996). Pure and Applied Chemistry, 68(10), 1919–2008. https://doi.org/10.1351/pac199668101919

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